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ウィーンには今までに沢山の日本人が勉強に訪れました。
今ではウィーンが第二の故郷といって、はばからない人たちが沢山います。そんな方たちが語るウィーンの四方山話です。まだ一度もウィーンに行かれた事の無い方にはバイブルに、一度でもウィーンを訪れた方なら、そうそうと、うなずかれる事ばかりです。ウィーン望郷とタイトルが書いてありますが、オーストリア各地の話題をお送りいたします。

東急田園都市線の青葉区にあるコンディトライ「ノイエス」のオーナーシェフ野澤孝彦氏の「ウィーン望郷」です。ご存知の方も思いますが、ウィーンの「オーバラー」「L.ハイナー」。そして南ドイツ・ロイトキルヒの「ヴァンディンガー」などで勉強してきました。当時の事を思い出しながら書いてもらいますのでお楽しみに。

「ロイマンプラッツの街角(1)」

「ロイマンプラッツの街角(1)」~Reumanplats~

私は、91年から洋菓子界に入り、各店を渡り歩き、ドイツ語の習得にも時間を割きながら渡欧のチャンスを狙っていました。
そんな中で94年にようやく「オーバーラー」での修業を許されました。当初は安いペンション暮らし。その後は、アパートメントホテルなど転々しながら「オーバーラー」での正式雇用のチャンスを狙っていましたが、シェフの解雇と同時にそのチャンスを逃していたのです。経営者が別の企業に変わった為です。
1995年2月のことです。L.ハイナーで働くことになり、社長のシュトゥラー氏が所有しているアパートを貸していただけることになり「ロイマンプラッツ」にやってきました。その街は、地下鉄U1の南に下った終点にあります。南ウィーンとでも言えばいいのでしょうか。比較的に商店も多く賑やかな街です。ただちょっと違いを感じるのが、外国籍の人々が多いのです。無論、私もその一人ですが・・・・。アフリカ系やアラブ系の住民が多く住み、彼らの文化が所々に垣間見ることができます。リンク内エリアの街角で見かける路上演奏は、もっぱらクラシック系等です。しかし、この街では、アフリカ・アンデス・東南アジア・インドなど世界各国の音楽が、路の片隅から聞こえてきます。
この街では、ウィーンのアンダーワールド的な時間が流れています。世界の音色と共に。

「ロイマンプラッツの街角(2)」

「ロイマンプラッツの街角(2)」

ロイマンプラッツの警察署に、外国人の居住申請の窓口があります。外国籍でウィーンに6か月以上滞在する者は、必ず外国人居住登録をしなければならないのです。勤め先のハイナーのシェフにも証明書欄に記入もしてもらい、警察署に行きました。アパートから徒歩で15分くらいです。
朝の10:00に着いたのですが、いただいた整理券の番号がすでに300番代です。進み具合も非常に悪く、申請窓口のドアも1個しかなく、1時間待ってもいまだに100番代です。なにせ、一回ドアが開くと一人づつ入ってひとりづつの申請ですから。処理にあまりにも時間がかかり過ぎているのです。すると、近くにいたアラブ系の男がやって来て、「次、ドアが開いたら、皆で一斉に入ろう。」と言い出し、周辺の者達にも提案しました。そして、ドアが開き一斉に突入です。さて何人の外国人が入りこんだのでしょうか。かなりの人数だったのを覚えています。外国人居住登録の事務所内は、もうパニック状態でした。そんなドサクサに紛れ込んで、居住許可の判をもらい、そそくさと警察署を後にしました。あの混乱の騒ぎは凄かったです。何人かは、暴れて床に抑え付けられてましたから。でもあの整理番号では、その日の内に居住許可の判はもらえなかったような気がします。

~ヘルナルザー通り~

<Helnarserstrasse>~ヘルナルザー通り~

地下鉄U2のショッテントアー駅から市電36番に乗りますと、ビールで有名なオッタクリンガー方面に行けます。市電に乗り込み、10分ほど乗っているとヘルナルザー通りに来ます。そこには、勤め先の「ハイナー」の友人宅があったのです。彼は、ポーランド出身で、アプフェルシュトゥルーデルのポジションで私の技術を盗むことに必死でした。よく彼とは、夜遅くまで遊び歩いた記憶があります。その都度彼の家で泊まることになっていました。
この通りは、早朝と夕刻にウィーンのリンクで活躍している馬車の通勤道路になっていました。彼の家の窓から聞こえてくる馬車の音で目が覚めることもよくあったものです。
それから12年後の2007年夏に、この通りにあるペンションを宿にするのでした。
12年前と同じように馬車の音で目が覚めました。ただ違うのが、家族と一緒にこの音を聞いていることです。

<カフェ ディグラス>

<カフェ ディグラス>

私が、勤めていた「L.ハイナー」のすぐそばに「カフェ ディグラス」があります。典型的なウィーンのカフェというより少し「ちょいワル」的な雰囲気を感じる店です。おそらくここのウェイターの雰囲気がそうさせるのでしょう。
注文をしても人の顔を見ずに、軽くうなずくだけ。注文した「フィアカー」を持ってきても、愛想など全く振舞うこともない。もちろん代金を受け取っても何ら感じることの無いような対応です。
でもそれが「カフェ ディグラス」なのだ。客とは必要以上関わらない。客同士の話を決して邪魔しない。「カフェ ディグラス」で過ごす時間の提供シンプルに徹する。そしてあくまでスマートに。無関心を装いながら。